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WHITE PAPER ON ISPE COMMUNITIES OF PRACTICE
[ISPE 会員に対するコミュニティ・オブ・プラクティ構想(COP)白書]
序論
2005年はISPEの歴史上、極めて重要な年となった。ISPEが製薬産業の製造技術の専門家に対するサービス提供を開始してから今年で25年目に当たる。しかし、ISPEにとっての今の課題は、如何にISPE共同体にとって重要な情報をタイムリーに入手する一層革新的な利用法探ることに引き続き焦点を当てることにある。ISPEはこの課題を克服するために、従来とは異なる手法を推進する必要があることをあらためて今また認識した。その重要なものの一つが、現在進行中のコミュニティ・オブ・プラクティス(COP)の構築である。
ISPEの最大の魅力のひとつは、形式ばらないカジュアルで且つ誰にでも平等な雰囲気を常に有していることである。世界のISPE会員数が30,000に近づくにつれ、今COP構想ををここで作り上げることが、世界に広がり続ける会員のネットワークの更なる活用を図ることにより個々の会員が最善の選択を可能ならしめるという利点になるだろうというISPEの「小さなこだわり」を維持する方法と考えている。さらにCOPグループによって、会員のニーズに関するベストな市場調査と製薬技術の専門家である会員が今最も求めいるものは何かを提起することが可能になり、その結果、ISPEが提供しなければならない会員へのプロダクツとサービスを最も満足のいく形で提供することができるようになるであろう。
コミュニティ・オブ・プラクティス(COP)という考え方は、ISPEにとって新しい概念という訳ではない。事実、国際レベルにあるGAMPフォーラムとClinical Materials Committee(臨床材料部会)は、既に確立した極めて効果的なCOPの好例となっている。そこで、本白書の目的は、ISPEコミュニティ・オブ・プラクティスの新たなる構築とその参加に関心を持っている製薬業界の技術専門家に対して指針を提供することにある。また、本書で扱う内容は、COPの定義、COPと既存の組織であるISPE国際本部のTask Team(作業班)・Committee(委員会・部会)・Counicil(評議会)との相違点、COPにとっての短期・長期的目標、COPに参加することで会員・製薬業界・ISPEが得られる価値、さらにこれがISPEの組織で中で運用される上での考慮すべき事項、そしてCOPの構築方法を述べている。
コミュニティ・オブ・プラクティス(COP)とは何か? COPが提供する価値とは何か?
組織共同体研究のパイオニアであるエティエンヌ・ウェンガーは、コミュニティ・オブ・プラクティスを初めて次のように定義した。「ある話題に対する関心、問題意識、熱意を共有し、常に交流を通じて自らの知識と専門性を深めていく人々の集団」 。ここで重要なのは、COPへの関与によるISPEメンバーへの重要な価値の付加方法を分類することである。まず、COPの発展に寄与している人物とは、台頭する業界のトレンドに乗るために積極的に関与しようとする意思を持った、志を同じにするISPE実践者である。コミュニティ・オブ・プラクティス(COP)は、これら個人が効果的で開かれた多少公式なやり方で協力しながら問題に取り組むことを可能にする。重要な点は、単にISPEが別の委員会、評議会、作業班への参加をボランティアに呼びかけた結果として実践共同体が存在するのではなという点である。むしろCOPは、COPのメンバーが真の関心事を共有して、類似の諸問題の解決に向けて共に学び、共に行動することで成り立っている。この点について、ウェンガーは次のように分かりやすく説明している。「このような集団で培われたノウハウは、実践者自身が産み出したものであり、集中的に収集した情報源から産み出されたものではない。」 ウェンガーは、複数のビジネス単位、地域、プロジェクトチーム間で技術の優秀性を保持するためにコミュニティ・オブ・プラクティス(COP)を利用しているシェル石油の事例、クライアント国間で実践共同体を構築している世界銀行の実践者が提案した貧困と闘うための新たな取り組み等、COPの現実的効果に関するケーススタディを数多く引用している。
ウェンガーの主張によると、実践共同体には次のような3つの基本性質がある。
- 領域 - 共同体をひとつにまとめ、メンバーが取り組むべき重要課題を規定する知識の範囲。
- 共同体 - ある領域に関連する人々の集団、およびメンバー間の関係の質。
- 実践 - メンバーが共有し、共に開発する知識、手法、手段、ストーリー、事例、文書の集合。
ウェンガーによれば、コミュニティ・オブ・プラクティス(COP)をうまく発展させることは、これら3つの要素すべてに注意を払うことである。
ISPEコミュニティ・オブ・プラクティス(COP)の構築
2004年にサンアントニオで開催された年次会合には会員である実践者達が集い、医薬品原薬(API)、工程/製品開発(PPD)、PAT、コミッショニングとクオリフィケーション(C&Q)、バイオテクノロジーという5つのコミュニティ・オブ・プラクティス(COP)の構築に関して成果を上げた。10月下旬に開催された同会合以降、新たに滅菌製品工程(SPP)実践共同体が起ち上げられた。さらに最近では、プロジェクト管理に焦点を当てたCOPの構築に対する関心が高まっている。プロジェクト管理(PMCOP)が加われば(注:既に発足)、COPの総数は7となり、将来別のCOPにとっての機会も創造されるだろう。
各COP運営委員会において、誰をその委員とすべきか、どの成果について合意すべきかの検討が進むにつれて、COPの構築とISPEの作業班(Task Team)や委員会(Committee)の構築との間に基本的な違いがみられるようになった。それは、統治機構はCOPメンバーによって決定されるものであり、ISPEの権限の下にはないという点である。しかしISPEはCOPの活動を支持し、当ISPE職員が管理面で支援している。
各運営委員会(COP Steering Committee)がすべきことは、COPの短期・長期的目標に焦点を当て、ISPE全体の事業目標を支援するミッションを策定することにある。短期的には、まず必要最低限の会員数を確保することに専念する。会員が積極的に関与するようになれば、会員同士が協力しあって、産み出された知識を用いて問題解決していくようになる。このような知識は後にCOP全体で再利用されるようになる。一方、長期的目標は、問題解決とISPEの教育プロセスに貢献する活発な実践者の共同体へとCOPを発展させることである。COPは将来、世界規模で活動し、ISPEのChapterやAffiliateに関与し、様々な協会の委員会に情報を提供するようになるだろう。この目的を効果的に達成するには、技術文書、論文、COPがサービスを提供する特定のセグメントに関連した教育プログラム等、新製品開発に関して提案や支援をしなければならないであろう。考えられるCOP活動としては次のものが挙げられる。
- 各々のCOPウェブサイト上の固有なDiscussion Forumに参加する。
- 既存のBaselineR Guidesの改訂や新しいガイドの作成に関して提案する。COPはまた、新たな技術文書の作成も支援し、最終的にはISPEの技術文書委員会を広範に監督する際に主導的な役割を果たす。
- インフォーマルな議論やネットワーキング活動を活用して共通の課題に対する新たな革新的解決法を策定する。
- ISPE年次大会を始めとするISPEの大会やプログラムで扱う教育関連の討論内容の策定に協力する。最終的には実際の討論内容について提案する。
起ち上げのプロセス
当然のことながら新たなCOP立ち上げにあたって最も困難なのは、目標・目的を達成するために、効果的な立ち上げプロセスや現実的な実施期間を設定することである。考慮すべき段階としては次のものがある。
- ISPE職員は、そのCOPの「発起人代表者」と協力して、運営委員会の委員選出基準を設定する。
- 運営委員会の議長、副議長、委員候補者を選出する。
- 運営委員会委員の選出・募集プロセスを決定する。
- 運営委員は、別のCOPとの重複の有無を確認する。その決定に基づき、委員はCOPの具体的なパラメータを定める。
- 強固な統治機構を構築する。
- COP規律に基づいて活動の範囲や使命を定め、具体的な課題と機会を明確化する。
- 短期・長期的な目標と成果を定める。これは、共同体メンバーとISPEにとっての共通のニーズ・関心に基づいていなければならない。
- 短期目標達成に必要な作業と行動を特定し、長期目標達成に向けた戦略を策定する。
- 重要なISPEのCommittee(委員会)、Council(評議会)、Task Team(作業班)における代表性を確保するために連絡係を指名する。特に、連絡係にはCommunication(コミニュケーション委員会)、Education(教育委員会)、Technical Documents(技術図書出版委員会)担当者が含まれなければならない。
- マーケティング・コミュニケーションプラン策定のために連絡係を支援し、メンバー募集やCOPの目的と権限の明確な特定化をする。検討すべき諸問題は以下の通りである。
対応すべき具体的なニーズや問題とは何か?
このCOPは何を達成しようとしているのか?
このCOPはそのメンバー、業界、ISPEに対して如何なる方法で便益を提供するのか?
このCOPにとっての価値と活動方法とは何か? - 此処に属する他のCOPメンバーの積極的参加を促し、共通の関心事について議論し取り組んでいくために、効果的なフォーラムやネットワーク化の機会を作る。
- メンバーが技術文書、論文、COPの特定セグメントに関連する教育プログラムの策定に対して提案することで生まれたメンバー間の交流の結果として、教育関連の検討内容を決定する。
理想的には、運営委員会(Steering Committee)が委員出席による第一回会合を開催し、その後は主として会合・会議間で電話会議を開催する。科学技術が利用可能になるにつれて、コミュニティ・オブ・プラクティス(COP)の電子化が成功の重要な鍵となる。そのため、メンバー間のオンライン討議グループが、将来共同体のウェブサイト内に設置されることとなる。さらに、電子化共同体(E-Community)へのリンクが設けられることで、運営委員会メンバーが相互に連絡・協力しあうための個別の場も用意されることとなる。
長期的なCOPの成功についての評価は、メンバー数、COPへの参加の程度、関連する分野の問題への取り組みで生まれた価値でもって最終的に測られることになる。短期的には、COPの成功は、強力な統治機構を持ち、オンラインDiscussion Forumを提供し、教育会講習会や年次大会のための技術文書・論文・教育プラグラムの策定に貢献したCOPであると年次総会で認定されるか否か次第である。
統治機構の構築
コミュニティ・オブ・プラクティス(COP)に特徴的なのは、各々のCOPが、独自の統治機構構築時に考慮すべき本質的な相違を持つ一方で、すべてのCOPに通じる普遍の類似性も複数持っている点である。その一例がCOPロゴである。ISPEは、各々のCOPがそれぞれのニーズに基づきデザインを変更できるCOPロゴ提供することになる。
統治機構を構築する際に検討すべき点のひとつは、以下のように臨床材料部会とGAMPフォーラムの統治機構を比較することである。統治機構については、GAMPフォーラムあるいは臨床材料委員会のいずれかに向けて構築されたCOPもあれば、GAMPフォーラムと臨床材料部会の異なる特徴を組み合わせたCOPや、全く異なる機構を構築するCOPも存在する。
- 臨床材料部会(CMC) -- 臨床材料部会の使命は、共通の関心事に関して討論する場をメンバーに提供すること、適切な場合には業界に共通する問題の解決策を提案すること、新薬認証の過程において臨床試験材料の重要性を積極的に主張することである。
CMCは公式にはISPEの部会であり、議長、副議長、事務局長、連絡担当、ISPE事務局連絡担当で構成される。最小構成人数は12人であり、委員は最長3年の任期で選出される。委員には積極的な参加が求められ、代理人を会議に出席させてはならない場合もある。議長については、ISPE国際本部会長が指名し、その任期は1年である。
CMCは次の3分科会で構成される。
- 臨床材料の教育・トレーニング分科会(CMENT) - 活動としては、年次大会での教育フォーラム、CTM製造コースの推進、教育ツールやガイドの開発と最新化、現行の課題に関する情報をタイムリーに収集するツールとしてのインターネットの利用などがある。
- 現実問題解決策分科会(STRIP) - 同分科会の目的は、現在のCTMが当面対応しなければならないこの業界の課題に対応することである。
- 架け渡し分科会 - 同小分科会の目的は、委員会と臨床材料専門家間の連絡を容易にすることである。
- GAMPフォーラム -- GAMPフォーラムは、その世界規模のメンバー構成やISPEの技術小委員会を主導する産業としての役割を反映して階層構造となっている。GAMPフォーラムの目的は、ヘルスケア産業内の規制や自動システムの利用に関する理解を促進することにある。同フォーラムの対象メンバーは、ヘルスケア産業内で日常的に自動システムのバリデーションに従事する専門家である。同フォーラムのメンバーは、GAMPフォーラム・ヨーロッパ、GAMPアメリカンズ・フォーラム、GAMP日本という、3地域のGAMPのいずれかに所属している。
GAMP Councilは、業界や規制当局のニーズに基づき、GAMPの方向性を定める責任を負っている。ヘルスケア産業の規制はコンピュータ、制御、実験システムに関連しているため、GAMP Councilは、ヘルスケア産業の規制という点と同じくらい重要な点において、業界と規制当局に影響を与えることが期待されている。さらに評議会は、GAMP地域運営委員会を通じてGAMPフォーラムを主導する役目も持っている。
業界評議会は、GAMPの評議会あるいは地域運営委員会とは別途に、討議の場を製薬業者の代表者に提供している。業界評議会のメンバーは、地域運営委員会のメンバーでもあり、「必要に応じて」会合を開催する。例えば、サプライヤー・グループはGAMPフォーラム地域内の供給業者がGAMP地域班の会議とは別に討論をしたいと望んだ時に会合を開催する。
地域運営委員会は、コンピュータシステムのバリデーションと当該地域に関連する諸問題について検討し、GAMPフォーラムを主導する。また、各地域運営委員会はGAMP評議会に代表を送っている。
GAMP編集評議会は、世界中のすべてのGAMP出版物に対する技術的な提案、論評、編集を行うことで、一貫性と標準化の確保の一翼を担う。
SIGSは、詳細な技術的問題を検討する場とネットワーク化の機会を提供する役割を果たしている。
結論
共同体メンバー同士が容易に連絡を取り合い、共通の問題・課題に取り組む機会を提供してきた直接的な結果として、実践者の数を増やすことは、今後もCOPの日常的な活動であり続けるだろう。こうした積極的な関与は、新たなCOPやISPEのメンバーを新規募集するための有効な手段になり得る。ウェンガーは、COPとメンバーの関係について次のように分析している。「コミュニティ・オブ・プラクティス(COP)は、メンバーにサービスを提供する中核的事業であるかもしれない。効果的に(COPを提供)するためには、まずメンバーにとって意味のある知識を理解していなければならない。故に知識共有や知識創造の過程で、どのような種類のCOP活動ならば、メンバーが専門家としてのアイデンティティを確立できるのかを学ぶ必要がある。」 彼はさらにこうも述べている。「コミュニティ・オブ・プラクティス(COP)は単なるウェブサイトや図書館ではない。COPでは、人々が交流し、問題に取り組み知識を共有できる関係を醸成している。」 こうした個人の積極的な参加により、実践者は今日業界が直面している問題の核心に集中することができ、全ての利害関係者にとっての価値が創造される。共同体メンバーにとっての利益は、社会的交流と共同体に蓄積された知識によって知識レベルが向上することである。一方、各製薬会社や製薬業界全体が利益を享受できるのは、メンバーが新たに獲得した知識を応用して実世界の問題の解決策を産み出した時である。さらに、ISPE共同体は、各種委員会、評議会、作業班会合や教育プログラム、出版物、大会を通じて産み出された新しい画期的な解決策や情報を普及させることで利益を享受することができる。